Dの日記 PAGE10〜14【Dの日記】
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【Dの日記】
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×月1日 (くもり)
もうすぐ私の誕生日、12日が待ち遠しい。
父は私にピアノを買ってくれると約束してくれた。
一日も早く弾きたい。
だけど私の指は7本しかない。3本足りない。
どこへ落としてきたのかしら…。
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×月2日 (雨)
指が足りないからピアノが弾けないと父に相談した。
すると父はこう言った。
「心配するな、指くらい買ってやる。安心しろ。」
結果私の指は今13本になった。
少し多すぎじゃないかしら…。
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×月3日 (晴れ)
目がかゆい。
どうしてかわからないけど、目がかゆくてたまらない。
あまりにかゆいので父に相談した。
すると父は私にこう言った。
「目薬をさしてやろう、これでおまえの目は宝石のように赤い。」
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×月4日 (晴れ)
そういえば私の部屋には「鏡」がない。
私は生まれてこのかた、自分の顔を見たことがない。
父はなぜか鏡だけは買ってくれない。
ピアノを買ってもらえるのに、どうして鏡は買ってくれないのかしら。
すると父は私にこう言った。
「おまえに鏡など必要ない、私が鏡になってやる。私が毎日おまえの美しい髪をといてやろう。」
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×月5日 (晴れ/くもり)
私の愛する父の仕事は畜産業。
毎日牛や豚を殺してお肉に変えて街へ売り出す仕事。
私が初めて父が牛を殺す瞬間を見たときのことはよく覚えている。
そのとき私はまだ5歳だった。
父は殺した牛をえびぞりにして貯蔵庫にしまっていた。
ところで今夜の夕食は牛肉のステーキだった。
とてもおいしかった。
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×月6日 (くもり)
今日は久しぶりに屋敷の裏の屠殺場をこっそり覗いてみた。
相変わらず父は牛や豚を「お肉に変える」仕事をしていた。
こっそり覗くはずだったが、すぐに父に見つかってしまった。
父は豚の返り血を全身に浴びながら私に言った。
「おまえもやってみるか。」
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×月7日 (雨)
私の指は13本ある。
しかしそのうちの6本は、どう見ても牛の歯にしか見えない。
これでピアノが弾けるわけないわ。
私は父に相談した。
すると父は私にこう言った。
「指は多ければ多いほど上達するぞ。もうすぐピアノを買ってやるからな。」
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×月8日 (くもり)
今日はめずらしくこのお屋敷にお客様がいらした。
その人は父の取引先のお得意様らしい。
私はここぞとばかりに、おいしいハーブティーをお客様に差し上げようとした。
しかし父は私に言った。
「おまえは人前に出てはならん、部屋でおとなしくしていなさい。」
なぜ私はお客様の前に出てはいけないのかしら。
私にだってお茶くらいは出せる。
それに私の家の庭ではハーブを栽培している。
きっとお客様も喜んでくださるはず。
私は父が屋敷の裏へ出て行ったところを見はからって、こっそりお客様の前に出てハーブティーを差し出そうとした。
しかしそのお客様は私の顔を見るなり、とても驚いた様子で屋敷を出て行ってしまった。
私何か失礼なことをしたのかしら…。
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×月9日 (晴れ)
どうしても鏡が見たい。
でも私の部屋には鏡という鏡がない。
私の目が赤くなった日から、どうも視力が落ちたせいか窓ガラスに写る顔もぼやけて見えない。
唯一自分の顔が写っている私の写真は、父が顔の部分をマジックで黒く塗りつぶしてしまった。
いったい私、どういう顔してるのかしら…。
その晩、私は少しお腹がすいたので冷蔵庫を開けようとした。
だがそのとき、突然父は冷蔵庫を開けようとした私の腕を強くつかんだ。
「どうした、お腹がすいたのなら今おいしい夜食を作ってあげよう。だから勝手に冷蔵庫など開けるな。」
そのときの父の目は少し恐かった。
しかしその日の深夜、私は父に見つからぬようこっそり冷蔵庫の中を見た。
すると中には背骨が逆に折れ、えびぞりのまま冷蔵庫に押し込められている人間が入っていた。
私はすぐにその人が誰だかわかった。
それは、先日私の顔を見て驚いて屋敷を出ていってしまったお客様だった…。
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×月10日 (晴れ)
夕食のとき、私は父に聞いた。
「お父様、私ってどういう顔しているの。」
すると父は答えた。
「決まってるじゃないか、おまえは世界一美しい少女だよ。」
さらに私は父に聞いた。
「お父様、私の誕生日にピアノはいらない。代わりに鏡を買って。」
だが父はこう言った。
「馬鹿を言っちゃいかん、おまえの美しい顔は私だけのもの。いいか、もし鏡など見たら…」
なぜか父はそこで口を止めた。
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×月11日 (雨)
いよいよ私の誕生日まで、あと一日に迫った。
私は父に言った。
「お父様、ゆうべはごめんなさい。やはり私 鏡なんかいらない。ピアノが欲しい。」
すると父は言った。
「そうか、それでこそ私の愛する娘だ。明日の晩、楽しみにしてるがいい。」
父はそう言ってとても嬉しそうな表情で私を抱きしめた。
私もうれしかった。
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×月12日 (嵐)
今日は待ちに待った私の誕生日。
今夜ピアノが屋敷に届くらしい。
嵐の日ではあるが、私と父の心は晴々としていた。
愛する父のために、私は今夜からピアノのおけいこをする。
いつか上手になって父に聞かせてあげたい。
午前0:00、私の寝室にりっぱなグランドピアノが届いた。
父は私に言った。
「さぁ、今夜は好きなだけ弾くがいい。誕生日おめでとう。」
私は今日ほどうれしい日はなかった。
さっそく私はピアノを弾き始めた。
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でも あれは確か午前02:00ごろだったかしら…。
嵐の夜、雷が鳴るたびにグランドピアノのフタに私の顔がちらちらと写る…。
でも見てはいけない。どうしてか分からないけど、私は自分の顔を見てはいけないらしい。
以前父は私に言った。
「いいか、もし鏡など見たら…」。
でも ちょっとくらいなら…。
しかしこのとき私は気づかなかった。
稲妻が光るたびにちらちらとピアノに写る私の顔の後ろに、誰かが立っていたことを…。
ピアノを弾いている私の背後から忍び寄る「父の姿」があったことを…。
その瞬間、私は父に背後からハンマーのようなもので叩き殺された。
どうやらそのあと、私の身体はえびぞりのまま冷蔵庫に押し込まれたようだ。
私の顔は父にとって「秘密」だったとは知らなかった…。
いったい私、どういう顔をしているのかしら…。
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