夢のトイレ
小さい頃の話。

夏がもうすぐ来るなぁって時期。怖い夢を見た。
ありきたりなんだけどね、殺されそうになって逃げる夢だった。

夢のなかではずっと(私の赤ちゃんがいない)って焦ってた。半狂乱だった。
殺される死にたくないあの子あの子が泣く私の○○返してお願いどこよあいつがくるしにたくないどこなのはやく○○が泣くからはやく、

○○は名前だった。起きたら忘れてたんだけど、ずっと呼んで探してた。
逃げながらも、なぜか自分以外の誰かが殺されるのがわかった。
誰か殺される瞬間だけ、別視点に飛んで見せつけられる。
赤い。そのたびに血の気が引いて怖くて怖くてたまらなくて、逃げた。
犯人はひとりだと分かっていた。それでもその一人に仲間が次々殺されていく。
今思うと理不尽なんだけど、夢のなかではリアルだった。

逃げて逃げて、公園に出た。自分以外の最後のひとりが殺されたのは分かっていた。
絶望と恐怖と、もう無我夢中で見たことのない場所を走った。妙にタイルと階段が特徴的だった。
水を、と思ってトイレに入った。鏡があって、それを見て自分が白人女性だと分かった。
夢のなかだから驚きもせず、早く赤ちゃんを探さないととだけ思って、蛇口をひねった。

水にだんだん、錆が混じった。
おかしい、なんで赤くなっていくの、と思ってるうちに、ぼこ、ぼごご、と排水溝から、水と血と少しの泡が逆流してきた。
この赤いのは血だ、とわかった。
細い髪の毛と小さな目玉が、人形みたいに小さな目玉が2つ、ぼこぼこと溢れてきた。
絶叫して、逃げて、公園で殺された瞬間に目が覚めた。

夏が来た。
正直、怖すぎる夢だったから、完全に忘れ去っていた。
楽しくちゃらんぽらんに遊んでいたら、田舎の親戚宅で怪我をした。
結局は軽傷だったんだけど、何せ子供だからわんわん泣くし、病院に連れていかれることになった。

田舎の病院には行ったことがない。
治療を済ませ、薬と支払いを待つ頃になると、探険したくなってきた。
母親に買ってもらったブリックパックのフルーツジュースを飲みながら、歩いた。

あちこち歩いて、歩いて、中庭のようなところに出た。
その瞬間に血の気が引いた。
だってあの妙に目につくタイルも階段も見覚えがある。
あの夢を見ていたことを思い出した。

走って逃げて、ずっと母にしがみついて、病院を出た。

以降その病院には行っていない。もう潰れてしまったそうだ。
あの洗面所があったのかどうか、分からないままに終わって良かった、と思う。
小さい頃の、夏のちょっと怖い話。

Good

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