かくれんぼ
五年前の話な。三年付き合っている彼女がいた。俺と彼女はどちらかというとドライな関係だった。
連絡は週末にするくらい。そんな彼女から平日、水曜にメールが入った。
状況がいつもと違う事に気付いた。
三年付き合ったのに別れってこんなにあっさりなんだなと俺は思った。メールには一言。
「もう いいよ」
俺には別れの意味がわからなかった。彼女に電話するがつながらない。
メールをしても返事が無かった。
メールから三日経ってから彼女の親から電話があった。
彼女が月曜から大学の研究で中国地方の鍾乳洞へ行きそのまま行方不明になっている事を告げられた。
俺は混乱しかけた頭で必死に考えた。あの「もういいよ」というメール。自殺か?俺のせいか?
ネガティブな考えが頭を巡る。
考えても埒が開かず精神的に参っていた。それから一週間後、彼女の親から連絡があった。彼女が鍾乳洞の中の湖で水死体で見つかったらしい。
俺は予めそういう考えもあったせいか意外と冷静にしながらも泣いた。
次の日の通夜に行く為俺は彼女の実家の岡山県まで行った。
彼女の両親と挨拶をして俺は呆然としながらも彼女の棺桶を覗いた。
水死体のあまりの酷さに絶句しながらまた泣いた。
俺は現実か夢かもわからないままただ座っているだけだった。
この後、全身の細胞ごと震えあがるのは通夜に来ていた彼女の家の近所のおばさん達の話を聞いてしまったからだった。
「あそこの鍾乳洞は私の田舎の近くなんだけどねぇ、10年くらい前にも小さい子供が死んでるらしいわよ。かくれんぼをしててそのまま行方不明になっちゃったんだって。」
俺には思い当たる事が一つあった。「もういいよ」というメール。その意味がわかった。
俺はその場で携帯を見るのは不謹慎かなと思いトイレの個室に入り鍵をした。
何度も見た彼女からの「もういいよ」というメールを見ながらまた泣いた。
俺は霊など信じていなかった。しかし信じざるをえなかった。
彼女からのメールが入ってた日は彼女が行方不明になってから二日後だったからだ。
霊的なものには怖いイメージがあったが何故か暖かい感じがした。
10年前にかくれんぼをしていて亡くなった子供の霊が彼女を早く見つけてあげてという願いのメール。そう思うとまた泣いてしまった。
次の日、葬式をすませた俺は喪服のまま新幹線で帰った。
新幹線の中でメールを見て、泣きながら外を眺めていた。
窓ガラスに移った黒い喪服姿の自分を見ながらある事を思いついた。
さほど気にしていなかったが彼女からのメールには「もういいよ」の後に二行程空白があった。
その空白部分の背景色を黒くしてみた。
すると白い文字で書かれた文字が読めるようになった。
「見つかっちゃった?次はあなたの番ね」
あれから五年たった今。俺はまだ生きている。
携帯は手放せない。
だって彼女から毎日メールがくるんだぜ。
「もういいかい?」ってさ。
「まぁだだよ」って返事しないとヤバいだろ。
カテゴリ:不思議・不気味
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