離れの蔵
実家の離れにさ、蔵があるの。
2階建ての。

昔、先祖は割と大きい農家だったみたいで、お宝があるとか婆さんは言ってたけど、入って確かめたことは一度もなかった。
親からかなり厳しく言われてたから。婆さんの言ってる事は冗談だから、あの蔵には入るなってね。
で、中学時代。
今でも忘れられないある夢を見て、ふと親に聞いてみたわけ。何であそこに入っちゃダメだったのって。
そしたらあの蔵は、元々物置とか物をしまっておく蔵じゃなくて、昔の村の病人とか気のおかしくなった人を隔離するとこだったらしいのね。
小学生の頃、お前の家の蔵、幽霊出るって確かに言われたりもしたけど、そういう曰くがあったせいで、地元ではその蔵がかなり昔から噂されてたこともその時始めて教えてもらった。

でまぁ大学2年の夏に帰省した時、地元の友達がその蔵に入りたいって言ってきたのね。
そんなに仲のいい友達って訳でもなかったけど、そいつは入って中の写真を撮りたいって直接家に言いに来た。
父は最初は怪我しても責任取れないからダメって断ってたけど、置かれてる物には触れないって事と、写真を撮るだけって事、後、当日立ち会う事を条件にOKした。
母は最期まで反対してた。

約束の日。
蔵の鍵がメッチャでかくてちょっと笑ったけど、それ使って重たい引き戸開けて中に入った。
1階は埃っぽくて、ドブ臭くて、昔の箪笥とか多分農作業用の道具だとかススキだったか藁だったかで編んだ様な大きな箱みたいなのがやたらとたくさんあったのを覚えてる。

入り口奥にあった2階に続く階段は狭くてほとんど直角。しかも蔵には電気通ってないから、階段から2階を見上げると真っ暗。
それでも何とか2階に上がって雨戸を開けると、部屋の中がかなり頑丈そうな木組みの格子で仕切られてるのがわかった。
その中に入れてたんだろうなって父は言ってた。
格子の向こう側には窓もなくて、なんか薄い畳みたいのが床一面に引かれてるだけ。
床が抜けるといけないからってことで中には入れなかった。
気になったのが、木の枠で囲まれた四角い穴。
それがボットン式の昔の便所だってことは後で教えてもらったんだけど、それ見ている内に中学時代に見た夢を思い出しちゃったんだよね。

夢ってのは、ちょっとカマキリに似た顔の丸刈りの男の人が、まさにその“昔の便所”から首だけ出して叫びながら、もの凄い勢いで首を振りまくってる…
そんな感じの内容だった。

嬉しそうに写真を撮ってる友達を見ながら、そういえば夢の男の顔がこいつにやや似なことに気付いてちょっと怖くなった。

『はよ次のん蔵に連れて来い!ワシみたいなん連れて来い!』

夢の男の叫んでいる内容は確かこんな感じだったと思う。
蔵を出た後、友達は父にお礼を言ったり色々と話しをしてたけど、その時の相槌が妙に夢の中の男の様で気持ち悪かった。
その後、その友達とは全く会ってない。あの相槌をされそうで、出来ればもう会いたくないというのがちょっと本音。
蔵はまだそのまんま離れに建ってます。

Good

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