重要な記録(2)
※イエス=二回 ノー=一回
「こんにちは」
 無音。
「私のことを覚えていますか」
 二回。
「ええ、緋那おばさんですよ。少しお話をしてもいい?」
 二回。
「今日はお日様が出ていますね。気持ちいいですか?」
 二回。
「お外に出ます?」
 一回。
「ここでいい?」
 二回。
「そう。それじゃあ、ここで」
 無音。
「あのね、おばさん、事故の時の話をしたいんだけど、いい?」
 無音。
「駄目?」
 やや後、二回。
「駄目なの?」
 一回。
「いいの?」
 二回。
「それじゃ、聞きますね。貴代ちゃんは旅行の帰りだったんですね」
 二回。
「空港を出た時は何も異常はありませんでしたか」
 二回。
「他の乗客の人たちは普通でしたか?」
 二回。
「飛んでいる最中に何かが起こったのですね」
 四回、間断なく。
「それはYESということ?」
 三回。
「つらい? この話、やめましょうか?」
 しばし後、一回。
「続けられる?」
 二回。
「じゃあ、もう少し頑張ってくださいね」
 二回。
「事故の前、飛行機は揺れましたか?」
 二回。
「恐かった?」
 やや後、一回。
「その時には、もう落ちると思いましたか?」
 一回。
「大したことはないと思ったんですね」
 二回。
「揺れはだんだん酷くなりましたか?」
 やや後、一回。
「しばらく小さな揺れが続いたんですか?」
 一回。
「それは、つまり……揺れが一度止まった?」
 二回。
「その後、また揺れましたか?」
 二回。
「その後、落ちたのですか?」
 二回。
「辛い事ばかり聞いてごめんね。恐かったでしょう?」
 二回。
「今日はこれぐらいにしておく? 疲れたでしょう?」
 一回。
「まだ話せる?」
 二回。
「それじゃあ、もう少し聞いていい?」
 二回。
「揺れている以外に、何か異常はありましたか?」
 しばし後、二回。
「それじゃあ」
 可美村緋那さんの言葉の途中で、三回。
「どうしたの?」
 三回。
「顎が疲れちゃった?」
 五回。
「震えてるの?」
 四回。
「貴代ちゃん、だいじょうぶ?」
 六回。間を挟んですぐに五回。
「少し落ち着くまで待ちますね」
 三回。
 しばし休憩。その最中にも、数回。
「もう大丈夫?」
 二回。

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